2017-12-04
最高裁平成29年4月6日第一小法廷判決は、共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるかについて以下のとおり判断しました。
1、事案の概要
本件は、亡Cの共同相続人の一人であるXが、亡Cが信用金庫であるYに対して有していた普通預金債権、定期預金債権及び定期積金債権(本件預金等債権)を相続分に応じて分割取得したと主張して、Yに対し、その法定相続分相当額の支払等を求めた事案であり、亡Cのその他の相続人であるA等がYに補助参加しました。
原審は(大阪高判平27.11.18金判1516.19)は、本件預金等債権は当然に相続分に応じて分割されるなどとして、Xの請求を一部認容しました。
これに対し、A等が上告受理の申立てをしたところ、第一小法廷は、上告審として事件を受理した上、判示の通り、原判決中Y敗訴部分のうち預金及び積金に係る請求に関する部分を破棄し、同部分につき一審判決を取り消し、同部分に関するXの請求をいずれも棄却しました。
2、最高裁の判断
上記のとおり、最高裁は、本件預金等債権は当然に相続分に応じて分割されるなどとして、Xの請求を一部認容した原審の判断について、原判決中Y敗訴部分のうち預金及び積金に係る請求に関する部分を破棄し、同部分につき一審判決を取り消し、同部分に関するXの請求をいずれも棄却しました。
その理由について最高裁は次のとおり判示しています。すなわち、
「定期預金については、預入れ一口ごとに一個の預金契約が成立し、預金者は解約をしない限り払戻しをすることができないのであり、契約上その分割払戻しが制限されているものといえる。そして、定期預金の利率が普通預金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、一定制限内には払戻しをしないという条件と共に定期預金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期預金契約の要素というべきである。他方、仮に定期預金債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないから、そのように解する意義は乏しい(前掲最高裁平成28年12月19日大法廷決定参照)。この理は、積金者が解約しない限り給付金の支払いを受けることができない定期積金についても異ならないと解される。」と。
したがって、共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきであるというものです。
3、今後注意すべき点
複数の相続人がいる場合に、相続開始と同時に定期預金債権や定期積金債権を相続分に応じて自分が取得した分があるとして、金融機関に対して自らの取得分のみの支払いを求めても、今後はこれは認められないということになります。
そうすると、相続人間での遺産分割の協議、調停、審判を経ないと、金融機関に対して預金の払戻しの請求はできないということになります。
本判決は、平成28年大法廷判決の直接の射程の外にあった定期預金及び定期積金についても従来の判例を変更し、平成28年大法廷判決と同じ法理が妥当することを示したものであり、実務的に重要な意義を有するものと思われます。
(判例時報2337号34頁参照)
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