2020-03-30
前回に引き続き、2019年に行われた労働法関係の改正をおさらいしたいと思います。今回は、有給休暇に関する規定の改正です。
前回と同様に、以下、改正前の労働基準法の法条文を旧労基(法)○○条、改正後の法条文を新労基(法)○○条といい、改正前後を通じて変更がないものは、単に労基(法)○○条といいます)。
1、旧法の規制
まず、そもそも有給休暇の規定は、労基法39条に規定があり、今もそれは変わっていません。
基本的には、6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して10日の有給休暇を付与し、さらに勤務期間が延びれば、付与される有給休暇も増えていき、6年以上になれば、合計20日間の有給休暇になるという定めです(労基法39条1項2項)。
しかし、有給休暇の取得率が低迷していたことから、年5日は有給休暇を強制的に取得させようとしたのが今回の改正です。
2、改正法の内容
(1)対象
まず、有給休暇を5日取得させなければならない労働者ですが、これは、新労基法39条1項から3項の規定により、有給休暇が10日以上ある労働者が対象となります(新労基法39条7項)。有給休暇が10日というのは、入社して6か月、8割以上出勤していれば付与される日数です(新労基法39条1項)。
パート従業員等の場合は(細かくは、週30時間未満かつ週4日以下又は年216日以下の者(新労基則24条の3第1項4項5項))、新労基法39条3項及び新労基則24条の3第3項の表に従い、有給休暇の日数が10日以上となったときから対象となります。
他方で、上記の法定の有給休暇の日数が10日に満たない労働者について、会社独自に10日以上の有給休暇を付与している場合は、上記5日取得させなければならない対象には含まれません(平成30年12月28日基発1228第15第3答12)。
(2)取得させる方法
既に5日以上の有給休暇を取得した労働者に対しては、もはや取得させる義務はありません(新労基法39条8項)。
使用者が時季を指定して有給休暇を与えるためには、あらかじめ当該有給休暇を与えることを労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならないとされています(新労基則24条の6第1項)。ただ、その意見は尊重しなければならないとされていますが、絶対に守らなければならないとはされていませんので(新労基則24条の6第2項)、有給休暇の取得を拒絶する労働者に対しても、最終的にはその意見にかかわらず、時季を指定して有給休暇を与えることができることとされています。
時期が遅くなってから5日間を連続で取得させるようなことになっては、業務に大きな影響が出る可能性がありますので、できれば、年度当初に労働者の意見を聴いたうえで、有給休暇の取得計画表を作成し、これにもとづいて有給休暇を取得させることなどを検討する必要があります。
このように既に指定した後であっても、事後的に変更の必要性が生じれば、改めて意見聴取を行い、その意見を尊重した上で変更することは可能です。労働者からの変更は基本的には認められませんが、その意見を尊重して、改めて使用者側が変更をするということが望ましいとされています。
(3)基準日
10日の有給休暇が最初に発生した日(一般的には、4月1日付入社であれば、同年の10月1日になることが多いのではないかと思います)を基準日といいます(新労基法39条7項本文)。
改正法の施行期日が平成31年4月1日でしたから、その日以降の基準日(原則論でいえば、4月1日入社であれば令和元年10月1日になることが多いのではないかと思います)からが、上記有給休暇取得義務の対象となります。例えば、令和元年10月1日が基準日であれば、そこから1年の間で5日の取得義務が生じることになります。
ただ、入社2年目以降の社員については、付与日を4月1日に揃えるといったやり方も可能で、実際にそのように規定されている会社もあると思います(新労基法39条7項但書)。そのような場合については、原則論としては、令和元年10月1日から令和2年9月30日までに5日、令和2年4月1日から令和3年3月31日までに5日を取得させなければなりませんが、その代わりに令和元年10月1日から令和3年3月31日までで7.5日取得させることも可能とされています(新労基則24条の5第2項)。
(4)就業規則への規定
休暇に関する内容は、就業規則の絶対的記載事項とされています(労基法89条1号)。このため、使用者による時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に規定する必要があるとされています(平成30年12月28日基発1228号第15第3答14)。
(5)時間単位の有給休暇
有給休暇は、協定を締結することで時間単位で取得することが可能となりますが(労基法39条4項)、半日単位での有給休暇の希望があった場合には、半日単位で時季指定を行うことができるとされています(平成30年9月7日基発0907第1号第3、2(3))。他方、それ以下の単位での有給休暇については、使用者による時季指定は認められず(平成30年12月28日基発1228第15第3答3)、労働者が自発的に時間単位の有給を取得しても、その分は時季指定義務の5日から控除することはできないこととされています。
(6)有給休暇管理簿の作成
上記のような有給休暇の取得義務が課されたことから、各労働者の有給休暇の取得状況を確実に把握するため、使用者に対して、労働者が年次有給休暇を取得した時季、日数及び基準日などを労働者ごとに明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、有給休暇を与えた期間満了後も3年間は保存をしなければならないこととされました(新労基則24条の7)。
(7)罰則
労働者に対して、必要な日数分の有給休暇を取得させなかった場合には、新労基法39条7項違反ということになり、30万円以下の罰金を科されることとなります(新労基120条1号、121条1項)。
なお、そもそも有給休暇を与えないなどといった場合には、新労基法39条(7項を除く)違反となり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科されることになります(労基法119条1号、121条1項)。
3、まとめ
以上が、有給休暇に関する平成31年4月1日施行の法改正の概要です。
ただ、ここでご紹介できていない点も多々あります。そもそも労働基準法のこのあたりの規定は非常に読みにくく、我々専門家でも参考書などを見ながら検討しなければ誤りかねない点も多いです。ですので、ご不安な点があられる場合には、専門家への確認をしていただければと思います。
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