2020-01-23
前回に引き続き、2019年に行われた法改正をおさらいしたいと思いますが、今回からは相続法に関連する規定です。相続法改正に関する第1回目は、自筆証書遺言の簡略化についてです。
遺言書の作成方法としましては、代表的な方法としては、自筆証書遺言と公正証書遺言とがあります。
このうち公正証書遺言は、次のようなものです。まず、遺言を残そうとする人(以下、遺言者といいます)が、公証人及び2人以上の証人の前で、遺言の内容の全部を言い、それを公証人が記述します。そして、公証人が、その内容を遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、間違いがないことを確認させます。間違いがないことを確認できれば、遺言者及び各証人が当該書面に署名押印します。そして最後に、公証人が、当該公正証書は法律に定められた方式に従って作ったものである旨を付記して署名押印することで成立するものです(民法969条)。公正証書遺言は、公証人が保管しますので、紛失等のおそれがなく、その内容についても争いになることが少ないといえます。
これに対して、自筆証書遺言は、遺言を遺そうとする人が、その全文、日付及び氏名を自らの手で記載し、それに押印をすることで成立するものです(民法968条1項)。
この自筆証書遺言について改正されたのは、全文を自筆しなければならないとされていた点です。この点、平成31年1月13日の改正で、民法968条2項が新設され(もともとの2項は3項になりました)、財産目録の部分についてだけは、自書することが不要となりました。つまりこの部分だけは、パソコンなどで記載しプリントアウトしたものを添付すればいいこととされたのです。条文をそのまま記載すると、次のようになります。
968条2項:前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
したがって、遺言の本文として、「別紙財産目録1記載の不動産を○○に遺贈する」などと自書し、別紙として○○さんに遺贈したい不動産をパソコンで記載しプリントアウトしたものを添付し、これに署名押印すればいいということになります。また、目録の添付については方式の規定はなく、法務省の見解では、例えば通帳の写しなどを添付することも可能とされています(署名押印は必要です)。
また、法務省の見解では、あくまで「別紙」として作成する必要があり、例えば、「次に記載する不動産は○○に遺贈する」などと記載し、同じ用紙にパソコンで目録を記載するといった方法は不適法なものとされています。
以上が、自筆証書遺言に関する平成31年の法改正です。
ただ、自筆証書遺言自体、上記のように様式が厳格であり、また変更の方法も法定されており、これを守らなければ無効となってしまうため、注意が必要です。また、その内容としても、文言を誤れば自分が望んだ分配の方法にならない可能性もあります。
このようなことを避けるためにも、我々としては、専門家に相談しながら遺言書を作成していただいた方が安全かと思います。気になる方は、法専門家にご相談いただければと存じます。
なお、本年、令和2年7月10日から、法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下、保管法といいます)が施行されることとされています。
遺言者が、自筆証書遺言の保管を法務局(その中の遺言書保管所)に行き、遺言書保安官に申請することで、法務局においてこれを保管してもらうことができるようになり(保管法6条1項)、紛失等の危険性がなくなることになります。
亡くなった方がある場合は、誰でも、自分がその相続人や受遺者となっている遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明する書面の交付を請求することができます(保管法10条1項)。また、相続人等は、遺言者が亡くなった後に、当該遺言書の閲覧を請求したり、遺言書情報証明書の交付申請をすることができます(保管法9条1項3項)。
保管法にもとづき遺言書保管所に保管されていた遺言書については、家庭裁判所での検認という手続きを経る必要がなくなる(保管法11条)というメリットもあります。
本年の7月10日以降のことではありますが、ご利用を検討されてみてはいかがでしょうか。
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