2020-01-31
前回に引き続き、2019年に行われた法改正のうち相続法に関連する規定について見ていきます。相続法改正に関する第2回目は、預貯金債権の先払いについてです。
1、預貯金債権についての従前のあり方
被相続人(亡くなった方)が、預貯金を有していたという場合、その預貯金も遺産に含まれることになります。
ただ、実際に遺産分割が行われる場面では、古い判例ですが、「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」という判断があり(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)、当然に相続人各人に分割して帰属するため、理屈上は遺産分割の対象とはならないということになっていました。最高裁判所は、この後も、遺産分割前に相続人の1人が相続財産中の可分債権につき、自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の相続人に対する侵害となるため、侵害を受けた相続人は、侵害した相続人に対して、不法行為にもとづく損害賠償請求又は不当利得返還を求めることができるとし(最判平成16年4月20日判時1859号61頁)、相続人間でも当然分割されることを前提とした判断をしていました。
しかし、銀行実務上、遺産分割協議書や共同相続人全員が捺印した同意書などがなければ、払戻しに応じていませんでした。なお、家庭裁判所では、相続人間で合意があれば、預貯金等の可分債権も遺産分割の対象となるという扱いをしていました(松原正明判タ1100号135頁等)。
そののち、平成28年になり、新たな最高裁判所の判断が出ました。それは、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」というもので(最判平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)、これまでの判断を変更するものでした。
しかし、この判断により、預貯金債権は、遺産分割の対象となったため、遺産分割協議が成立する前、又は共同相続人の同意が得られる前においては、当該預貯金の引出しができなくなってしまいました(ただ、銀行実務上ではできなかったことですので、この最高裁の判断によりできなくなったということでもありませんが)。
ただ、いろいろと支払いの必要性があったりしますので、遺産分割協議前に預貯金の引出しを認めるための規定が新設されました。
2、新制度
まず、民法909条の2が新設され、令和元年7月31日から施行となっています。具体的には、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を掛けた金額については、単独でその権利を行使することができることとされました。ただし、上限があり150万円とされています(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(平成30年11月21日法務29))。
なお、相続開始日が令和元年7月31日よりも前であっても、令和元年7月31日より以後は、この規定による預貯金の払戻請求が可能とされています(附則5条1項)。
他方、上記上限金額150万円を超えて遺産である預貯金を必要とする支払いがあるものの、遺産分割協議の成立まで待てないという場合に備えて、新家事事件手続法200条3項が整備されました。
具体的には、①遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合で、②裁判所が、仮払いの必要があると判断し、③他の共同相続人の利益を害しない場合に、家庭裁判所が認めることができるものとされています。
3、まとめ
以上のように、預貯金債権に関する最高裁判所の判断が変わり、法律も変わっています。遺産の中の預貯金について支払いのためなどに必要があるという場合には、上記の制度の利用を検討されてみてはいかがでしょうか。
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