2017-12-08
非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする民法の規定を違憲であると判断した実務上極めて重要な最高裁判所決定が、平成25年9月4日に全員一致で出されましたのでご説明致します。
1、事案の内容
被相続人Aは、平成13年7月25日に死亡しました。Aは妻Bとの間に嫡出子であるX1、X2、Cの3人の子を、D女との間に嫡出子でない子であるY1、Y2(以下Yらとする)をもうけました。D、Y1、Y2は、相続開始時にはAの氏を称していました。Aの相続人は妻B、嫡出子X1、X2、相続開始前に死亡したCの代襲相続人X3、X4、嫡出でない子Y1、Y2です。X1~X4が申し立てた遺産分割の手続において、Yらは、非嫡出子の法定相続分を定める900条4号ただし書き前段の規定が憲法14条1項に反し無効であると主張しました。東京家審平24.3.26は、Yらの主張を採用せず、平成16年に死亡したBの相続分の2分の1をX1~X4が相続し、法定相続分につきX1とX2が各48分の14、代襲相続人X3、X4が各48分の7、Yらが各48分の3としました。さらに、特別受益を受けたYらは、その具体的相続分が0となり、遺産を取得することができないとしました。Yらの抗告を東京高決平24・6・22が棄却したため、Yらは、特別抗告をしました。
2、非嫡出子の法定相続分の問題
「子」には、婚姻関係にある夫婦間の子である嫡出子とそうでない子の非嫡出子という区別があります。この嫡出子と非嫡出子の区別は、かつて民法900条4号ただし書きにおいて、法定相続人として嫡出子と非嫡出子がいる場合には、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の2分の1とするという規定があって、遺産相続において大きな影響を及ぼしていました。
この規定に対しては、同じ「子」であるのに非嫡出子を嫡出子よりも不利益に扱うことは差別であり、日本国憲法が保障する法の下の平等に違反するという批判がありましたが、平成7年7月5日の最高裁の決定は「民法900条4号ただし書きの規定は、法律婚の尊重と婚外子(非嫡出子)の保護の調整を図ったものであり、著しく不合理とはいえず、立法府の裁量判断の限界を超えたものとはいえない」として合憲とし(ただし、15人の裁判官のうち5人は違憲とする立場をとりました)、その後も最高裁は基本的に平成7年の決定の立場を踏襲して5回程同内容の決定を出しましたが、少なからず違憲とする反対意見がありました。
そこで、このままでは問題であると最高裁がこの問題について決着をつけたのが最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定(最大決平成25年9月4日)です。この決定は、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定を違憲であると判断し、最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定は、以下のとおり判示しています。
「(前略)本件規定(民法900条4号ただし書き)の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は、その中のいずれか一つを捉えて、本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし、昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。」
以上のとおり、最大決平成25年9月4日は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの規定を、遅くとも平成13年7月に相続が開始された事案については、憲法14条1項の法の下の平等に違反していたものであるとしました。その理由として、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、父母が婚姻関係になかったという子にとって自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されないこと、子を個人として尊重しその権利を保障すべきであるという考え方が確立されてきたことがあります。
3、注意点
(最大決平成25年9月4日の実務への効力・影響)
裁判所は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの規定を違憲と判断しましたが、その違憲となっていたのは、「遅くともAの相続が開始した平成13年7月」であるとしています。そこで、問題となってくる点は、平成13年7月からこの判決が出されるまでの間になされた遺産分割等についてですが、最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定は、以下のとおり判示しています。
「本決定は、本件規定が遅くとも相続が開始した平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり、平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法廷判決及び小法廷決定が、それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。」、「本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である」と。
以上の観点からすると、
①平成13年7月より前に相続が開始された遺産相続に関する法律関係には影響を及ぼさない。
②平成13年7月から平成25年9月4日までの間に相続が開始された遺産についての遺産分割協議が成立・遺産分割審判が確定または可分債権債務について合意成立や裁判確定があった場合には、それらに対しては影響を及ぼさない(民法900条4号ただし書きのとおり、嫡出子対非嫡出子の相続割合は2:1の規定が適用されることに変わりない)。
③平成13年7月から平成25年9月4日までの間に相続が開始された遺産についての、上記のような協議成立や裁判確定がなされていない場合には、たとえ係争中であっても、上記決定に従って、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分と同じであるとしなければならない。
ということになります。
尚、最大決平成25年9月4日を受けて、同年12月4日に民法が改正され、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の半分とする民法900条4号ただし書きの規定は撤廃されました。この改正は、同年12月11日からすでに施行されています。併せて、附則で経過措置として改正後の第900条の規定は平成25年9月5日以後に開始された相続について適用する旨規定されました。結局、これらの規定により平成25年9月5日以後に相続が開始された案件については、嫡出子も非嫡出子も同じ法定相続分で遺産分割及び遺留分減殺がなされるべきということになりました。
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