2018-04-27
平成29年5月29日より、登記所(法務局)において、各種相続手続に利用することができる法定相続情報証明制度が始まりました。この制度が始まったことにより、相続手続をする相続人とその相続手続を受ける側(銀行、保険会社等の担当者)双方の負担軽減が可能になりましたので、以下、ご説明致します。
1、制度創設の背景及び不動産登記規則の改正内容
今般、不動産の登記名義人が死亡したにも拘わらず、所有権移転登記がなされないまま放置されている不動産が増加し、そのため、土地の開発等のために空き地や空き家を利用しようとしても所有者を特定できず、手続が進められない状況が社会問題となっています。そこで、法務省は、相続登記を進めるために、不動産登記規則を改正し、新たに同規則第37条の3、同規則第247条及び248条を設け、平成29年5月29日より「法定相続情報証明制度」をスタートさせました。すなわち、同規則第37条の3において、「相続人が不動産登記の申請をする場合において、その相続に関して同規則247条の規定により交付された法定相続情報一覧図の写しを提供したときは、当該写しの提供をもって、相続があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報の提供に代えることができる」と規定した上で、同規則の第6章に「法定相続情報」という章を設けて、同規則第247条において、「法定相続情報一覧図の写しの交付の申出について申出することができる者、申出先、申出書に記載するべき事項、申出書に添付すべき書面、登記官が法定相続情報一覧図の写しを交付をする要件、法定相続情報一覧図の写しの再交付の申出の要件等」について規定し、同規則第248条において、「法定相続情報一覧図の写しの交付及び書面の返却については、申出人の申出により送付の方法によりすることができる」旨を規定しました。
2、法定相続情報証明制度の概要
各相続人は、相続手続をするにあたり、まず被相続人の出生から死亡までの戸籍等を取り寄せてその内容を読み込み、相続人を確定する必要があります。その後、その戸籍一式と他の必要書類(遺産分割協議書等)を法務局や銀行等の金融機関に持参して相続手続を行うことになります。戸籍は、相続人が多数存在したり、被相続人が再婚を繰り返すなどしていた場合、膨大な枚数に及ぶこともあります。従来は、その戸籍の束を法務局や金融機関にその都度提出していましたが、「法定相続情報証明制度」ができたことにより、法務局に「法定相続情報一覧図の写し」を交付してもらえれば、ほとんどの銀行や保険会社等の金融機関において、その一覧図の写し1通で相続手続の戸籍の確認をすることが可能になりました。この制度の利用は強制ではありませんので、金融機関によっては、従来どおり戸籍一式の提出を求められることも考えられますが、国の機関である法務局が膨大な戸籍の内容を確認して、法務省の認証文を付した「法定相続情報一覧図の写し」を利用することは、金融機関にとっても、膨大な数の戸籍を確認しなければならない担当者の負担が軽減され、手続の時間短縮等に繫がることが期待できることから、この制度の利用が比較的早く金融機関に浸透するのではないかと思われます。
3、法定相続情報一覧図の写しの交付の申請手続
上記一覧図を交付してもらうには、①戸除籍謄本等と②法定相続情報一覧図を用意して、管轄の登記所((法務局)被相続人の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地)に上記①と②を添付した申出書を提出する手続が必要になります。申出をすることができるのは、相続人とその代理人とされていますが、その場合の代理人は、申出人の法定代理人又はその委任による代理人にあってはその親族若しくは戸籍法10条の2第3項に掲げるものに限るとされており、弁護士はその資格があるとされていますので、弁護士は相続人から委任状をもらえば、法定相続情報一覧図の写しの交付を受けることができます。尚、法定相続情報一覧図の写しの交付を受けるための手数料は国民が制度を利用しやすいようにすることが望ましいとの観点から無料とされており、複数通発行可能です。
4、相続手続についての注意点
上記2項に記載のとおり、「法定相続情報一覧図の写し」を利用することは、相続人及び法務局や金融機関の双方にとって負担軽減のメリットはありますが、上記一覧図の写しだけで相続手続ができるわけではありません。つまり、「法定相続情報一覧図の写し」のみで相続手続ができるものと思いがちですが、戸籍以外の書類で、法務局や金融機関に求められていた書類(遺産分割協議書、相続放棄受理証明書等)は、これまでどおり収集又は作成して提出する必要があります。また、上記一覧図の写しには、戸籍から読み取れる内容は記載されますが、推定相続人の廃除の場合、被相続人の死亡後に子の認知があった場合、被相続人の死亡時に胎児であった子が生まれた場合、遺産分割協議の有無・その内容等、戸籍の記載から読み取れないことは記載されないことから、実際の相続人と一覧図から確認できる相続人に食い違いが生じることがある点は注意が必要です。それでも、法定相続情報一覧図の写しが、不動産の相続登記の申請手続をはじめ、被相続人名義の預金の払い戻し等、様々な相続手続に利用されることで、相続手続に係る相続人や手続の担当部署双方の負担が軽減することや、本制度を利用する相続人に対して、相続登記のメリットや放置することのデメリットを登記官が説明することなどを通じ、相続登記の必要性について意識が向上することが期待できます。
5、相続手続案件を抱えておられる方へ
当事務所は、これまで遺産の分け方について特段争いのない事案についても、相続人らの依頼により相続手続(不動産の相続登記や相続による預貯金の払い出し、相続人らによる死亡保険金の請求手続き等)を行っており、今後は法定相続情報証明制度を利用することによってこれまで以上に迅速にこれらの手続を進めることができると考えております。このような案件を抱えておられる方は、当事務所にお気軽にご相談下さい(平日9時~17時の間に電話でご予約下さい。TEL:099-225-7973)
以 上
下記以外の法律相談にも対応いたしております。
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